第35回外国人のための法律講座

NPO栃木タイムズ 主催 2012年4月22日開催

35回外国人のための法律講座・交流会

テーマ「国際結婚・国際離婚とハーグ条約」

報告

鈴木美惠子

 

2012.4.22 第35回法律講座
2012.4.22 第35回法律講座

NPO栃木タイムズ主催の第35回外国人のための法律講座~テーマ「国際結婚・国際離婚とハーグ条約」~が2012422日(日)宇都宮市総合福祉センターで開かれました。


2010年の厚生労働省人口動態統計年報によれば、結婚総数(婚姻件数)の約4%(=30,207/700,214)が国際結婚であり、この数値は1980年の0.9%(=7,261/774,702)と比較すれば大幅に増加していることが分かります。しかし、2000年代半ばまで急増した国際結婚数はその後、減少し始めています。一方で国際結婚している人たちの悩みは、生活・習慣・文化の違いからくるストレス、就労、医療、教育、福祉など多岐にわたっています。また、法制審議会が201227日、国際結婚が破綻した夫婦の子どもの扱いを決めた「ハーグ条約」加盟に関する国内法要綱を決定し、法相に答申しました。海外から日本に連れ去られた子どもの返還を求める事例は、年間数10件に上ると言います。  

今回の「外国人のための法律講座」では国際結婚・国際離婚とハーグ条約の現状と課題について考えました。


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 ハーグ条約は、結婚が破綻して一方の親が子を国外に連れ去った場合、子をいったん元の居住国に戻して親権争いを決着させる手続きを定めています。16歳未満の子を無断で連れ帰る日本人親の増加に伴い、欧米で日本への加盟要求が強まり、政府は20115月に加盟の方針を閣議了解しました。

 201227日の法制審議会は、国内で整備が必要な裁判手続きなどの要綱を小川敏夫法相に答申しました。要綱には日本人の親が日本に連れ帰った子を外国にいる親が戻すよう求めた場合の手続きを規定。家裁が子を戻すかを決定し、従わなければ裁判所の執行官が強制的に子を引き離せる仕組も盛り込んでいます。

 

子どもを戻さなくても良いケースは、

 

* 連れ去りから1年が経過し、子が新たな環境に適用している

 

* 戻すよう求めている親が子の面倒を見ていなかった

 

* 戻すよう求めている親が子の連れ帰りに同意していた。

 

* 子が戻ることを拒んでいる。

 

* 子が心身に害を受ける危険がある

 

(戻された国で子や一緒に戻った親が暴力を受けたり、親が子を世話するのが難しくなったりする恐れがある)


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 これに対し、ハーグ条約締結に反対する民間団体からは、次のような問題点も指摘されています。

 

なぜハーグ条約では、

子どもの利益が優先されないのでしょうか

 

ハーグ条約は、残された監護親の申し立てを受けて、迅速に子どもをもといた国に「返還」させることを目的とする制度です。子どもを連れた帰国の理由や、子どもがどちらの親と強いきずなを持っているか、どちらの親のもとで生活するのが子どものためになるか、ということに立ち入っては、迅速な返還という目的を達成できないため、このような事柄に踏み込まず、即時に子どもを返還する義務を締約国に負わせているのです。

子どもの権利条約3条1項は、子どもに関するすべての措置をとるには、子どもの最善の利益が最優先されるという大原則を掲げていますが、ハーグ条約においてはこの原則は、迅速な「返還」という目的のために後退させられているのです。

ハーグ条約で保護しようとしているのは、本当に子どもの権利なのでしょうか。むしろ、連れ去られた親の監護権を保護しようとしているのではないかとの疑問がうかんできませんか。

    (http://hague-shincho.com/problem

 

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 政府は、今国会での条約承認を目指す予定ですが、他の重要課題も多く、法案成立と承認の見通しは立っていません。賛否両論が渦巻く中、締結を急ぐ前に、もっと国民的な議論をする必要があると思われます。