第34回外国人のための法律講座

NPO栃木タイムズ 主催 2012129日開催

34回外国人のための法律講座 テーマ「外国人の医療」

報告

NPO栃木タイムズ 代表 鈴木美惠子

 

2012.1.29 第34回法律講座
2012.1.29 第34回法律講座

外国人の場合、在留資格があり健康保険や国民健康保険に加入していれば日本人と同じ医療のサービスを受けることができる。講座の前半では、日本の高度医療のおかげで、生体肝移植によりC型慢性肝炎を克服した例や、重い心臓病の幼児が手術により健康になった例など、難病を克服した外国人やその家族から貴重な体験談を聞いた。後半では、外国人の医療通訳者の話や、20111120日に行われた「2回医療相談会~外国人と経済困窮者のための~」の報告もされ、外国人の医療の現状と問題点について考えた。

 

参加者の体験談

 

・タイ出身の在日24年目の女性は、タイで第一子を出産した時、輸血した血液からC型肝炎に感染した。その後来日してから肝硬変を患い、感染脳症にかかった。医師からは「肝臓を移植しないと、あと半年の命しかない」と言われ、6年前に生体肝移植をすることを決心した。23歳の独身のタイ人の姪がドナーとなり、彼女の肝臓の一部を移植した。手術は成功し4か月後に退院した。

彼女のご主人は日本人であり、彼女も日本語は堪能で通訳もできる。そんなことから、医師とのコミュニケーションや様々な書類の作成にはあまり苦労せずに済んだ。しかし、生体肝移植に伴うドナー探しと高額な費用はかなり厳しいものであった。

 

バングラディシュ出身の在日25年目の男性の再婚した妻の子供(当時1歳)の心臓には、生まれつき2つの穴があいていた。来日前にインドでした手術は成功せず、穴があることで血液が逆流し、食べては吐くということを繰り返していた。日本の病院で受けた手術は成功し、手術後1年半で退院し現在は元気に過ごしている。彼は、日本語も堪能で医療関係の書類も自分で作成した。宇都宮市のこども医療費助成制度を利用して医療費の補助は受けられたが、1年半という長期入院による保険診療以外の費用は大きかった。

 

フィリピン出身の在日26年目の女性は、タガログ語の通訳・翻訳者だ。彼女は約20年前に設立された「栃木インターナショナル・ライフ・ライン」のメンバーとして、15ヶ国語診療対訳表 Medical Check Sheet」のタガログ語の翻訳も担当した。2010年と2011年に行われた「栃木における第1回と第2回外国人のための医療相談会」(注1)では、タガログ語のボランティア通訳も担当した。医療相談会に協力した医師は「通訳者が患者さんの状況を良く理解し説明してくれるから、医師としてはとても助かります」と話していた。

 

長澤正隆さん(「外国人のための医療相談会」代表)は、20111120日慈啓会・白澤病院で開催した「第2回栃木での外国人のための医療相談会」の報告をした。(注1)

「医療相談会」では「胸部X線、血液検査、問診、尿検査、血圧、子宮頸癌、身体測定」の検診を行ない、検査結果は医師を通じて直接本人に個人面談方式で知らせた。症状のある場合は紹介状、または病院に同行、再度検査処置の必要な場合は交通費も含め上限金額を決めて支給した。

2010年の参加者は13カ国52人だったのに対し、2011年は東日本大震災の影響を受けたせいか、8カ国36人と減少した。2010年は異常のある人はなかった。2011年は全体的には生活慣習病などで対応が必要なケースがあった。総じて、外国人は週日内を休むと給料に響くために検診等には行かない。日曜日に通訳付きで「外国人のための医療相談会」を開催する理由の一つに、言葉が正しく伝わらない、読むこと、書くことが出来ないことがある。日常会話は出来ても、健康診断の結果のデータは聞いてもわからないことがあるからである。

 

他の参加者からは、

 

10年間夫の仕事の都合でアメリカに在住後、現在、夫の転勤で日本に住んでいる女性は、「先月出産したが、日本では住み始めて健康保険料を支払うとすぐに医療のサービスが得られるので、非常に助かった。アメリカでは公的医療保険制度がないので、病気になり病院にいくと高額な医療費を払わなければならず非常に大変である。アメリカでもやっと健康診断の制度ができたところである」と日本とアメリカの違いについて話した。

○スリランカ人の夫持つ日本人女性は「夫がストレスから病を発症したことがある。病気にならないよう予防が普及したら良いと思う」と予防の重要性を強調した。

○日本人の男性は「外国人は生活、習慣、文化の違う所で過ごさなければならないので、心の健康を損なうこともある。心の病についても考える必要があるのではないか」と心のケアについて指摘するなど、様々な意見が出た。

 

 

今後の外国人の医療に関する課題は、

 

1 在留資格があり、公的医療保険(国民健康保険、健康保険)に入っていれば、日本人と同じ医療のサービスを受けられるが、在留資格の有無にかかわらず、公的医療保険に入っていない人たちの医療問題は深刻である。

 

2 日本に長期滞在する外国人も増え、軽い病気よりむしろ特殊な高額医療を必要とする人が増えている。高額医療の場合行政から補助もでるがすべて保険ではまかなえず、保険がきかない部分の負担は高額となりとても厳しい。

 

3 生活・習慣・文化・言語の違い、在留資格、教育、就労、DV、薬物依存、障がい者や介護などに関する福祉、これら様々な問題が複雑に絡み合いそれらがストレスとなり、身体的な病ばかりでなく、精神的な病を患う人も増えている。心のケアにも気を使う必要がある。

 

4 医療通訳者の数が十分ではない。通訳者は通訳ばかりでなく生活相談も受ける。相談者ばかりでなく通訳者の心のケアも必要である。

 

5 予防と健康診断などによる疾病の早期発見に努める必要がある。

 

6 医療関係のサポートはボランティアだけでは限界がある。医療関係者とボランティアと行政のネットワークの構築も大切である。

 

少子高齢化、グローバル化が進む中、在住外国人の数も増え、永住者の数も増えるであろう。外国人も地域の一員となり、生活・習慣・文化の違いを理解しあい、地域社会の人たちとのコミュニケーションを密にし、協力し合って共に地域作りに参加し、より良き多文化共生社会を構築していくことも、様々な問題を解決するための大きな力となると思われる。

 

(注1)「外国人のための医療相談会」は、19976月、一般市民と諸宗教及びキリスト教会員により、名前のとおり「外国人の医療相談会」を開催したことをきっかけに設立した。対象となる外国人や経済的困窮者は、健康保険を持っている、持っていない、収入がある、ないに係らず対象としてきた。その目的は、外国人やホームレス等に健康診断を受ける機会を提供し疾病の早期発見を行い、検診結果については母国語による報告会を行い早期治療に結びつけ、本人の健康問題への自覚を促し、また結核及び感染症等の発見と健康保持についての指導を行なうとともに、地域住民への感染を未然に防ぐことである。「外国人のための医療相談会」は1997年にスタートし、2011年末現在、群馬県において13年・18回、栃木県(宇都宮市)で2回目を迎え、通算20回に達した。